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突き抜けるような青空。夏の盛りの日差しが、容赦なくジリジリと照りつける。セミの鳴き声が、ジメジメとした風に乗って聴こえてくる。
小さな木造の駅舎だった。
――昔と何も変わらないな。
形容するなら、『時がとまった』とでも言っておこうか。昔となんら変わりない、故郷の香り。
都会から出てきたせいか、まるで漫画の世界にでも入り込んだ気分だった。この古ぼけた『藍沢町』と書かれた看板も、どこか懐かしい。
眠そうな駅員に切符を渡し、少年は駅の外へと踏み出した。
澄んだ空気が喉を潤す。
――さて……どっちだったっけな?
少年は名を、旬といった。黒い、外ハネ気味の髪型。適度に整った顔立ち。
旬がこの町、『藍沢町』へと帰ってきたのには、ちょっとした理由があった。
夏休み。心に残る思い出作り。恋人との甘いひと時――。学友の誰もがそんな事を口にしていた。
高校生になって、二年目の夏休みだ。まさに青春の真っ只中。みな、この休みにそれぞれの想いを馳せていた。
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