さまーばけーしょん

4/34
前へ
/34ページ
次へ
 旬にはその声に聞き覚えがあった。 「もしかして……夏月ちゃん?」  旬の首にぶら下がり、じゃれた猫のような屈託のない笑顔で微笑む少女。  背丈はおよそ、百五十くらいだろうか。くりくりとした大きな瞳が特徴的だ。角度的には、深い緑にも見える髪を、短めのツインテールに結い上げていた。 「むぅ……。お兄ちゃん? もうあたし、子供じゃないんだよ?」  少女は不満そうに頬をプクと膨らませた。彼女的には、「怒っている顔」をイメージしたらしいが、それにしては迫力不足だった。 「ごめんごめん、夏月。元気にしてた?」  彼女の名は五十嵐夏月。伯父たち夫婦の一人娘で、今年の冬に受験を控えた中学三年生だ。体格的に見ると、とてもではないが、そうは見えない。 「むっ! お兄ちゃん今、失礼な事考えてたでしょ!」 「え? な、なんで?」  じぃ~っと旬を睨む夏月。 「そ、それにしても! 本当にここは変わらないね」 「むぅ、話題そらした~」 「あは、あははは……」
/34ページ

最初のコメントを投稿しよう!

22人が本棚に入れています
本棚に追加