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旬にはその声に聞き覚えがあった。
「もしかして……夏月ちゃん?」
旬の首にぶら下がり、じゃれた猫のような屈託のない笑顔で微笑む少女。
背丈はおよそ、百五十くらいだろうか。くりくりとした大きな瞳が特徴的だ。角度的には、深い緑にも見える髪を、短めのツインテールに結い上げていた。
「むぅ……。お兄ちゃん? もうあたし、子供じゃないんだよ?」
少女は不満そうに頬をプクと膨らませた。彼女的には、「怒っている顔」をイメージしたらしいが、それにしては迫力不足だった。
「ごめんごめん、夏月。元気にしてた?」
彼女の名は五十嵐夏月。伯父たち夫婦の一人娘で、今年の冬に受験を控えた中学三年生だ。体格的に見ると、とてもではないが、そうは見えない。
「むっ! お兄ちゃん今、失礼な事考えてたでしょ!」
「え? な、なんで?」
じぃ~っと旬を睨む夏月。
「そ、それにしても! 本当にここは変わらないね」
「むぅ、話題そらした~」
「あは、あははは……」
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