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「ご飯です…ここに置いておきますね」
大妖狐の娘が捕らえられて数日がたったある日、いつものように食事を持ってきて去っていこうとした時、
「あ…あの…さ…」
大妖狐の娘は初めてその犬神に声をかけた。ピクッと反応する犬神。驚いていた…それはそうだ…何年何十年何百年も食事を運んできたが、今日初めて声をかけられたのだから…
「はい、なんでしょうか?」
微笑んでいた。それが偽りの微笑みだったとしても今の大妖狐の娘には充分に緊張を和らげてくれた。
「…しあわせ…ううん…わたしは…わたしでも……だれかをすきになっても…いいのかな…?」
消え入るような小さな声。突拍子もないことだっただろう。だがその犬神は笑わず少し考えてから、
「私は…いいと思います。どんなに罪深き者でも…幸せを…誰かを好きになることは自由だと思いますから」
心が軽くなった。誰かにそう言ってもらいたかった。誰にも認めてもらうことなどできないと思った。私は大妖狐の娘だから…。だが、この犬神は認めてくれた。それも…真剣に…。
「ふふっ♪好きな方ができたんですね♪」
急にクスッと笑い問いかけてきた。
「そ、そうだよ!わたしは…きっと…すきになったんだと思う…」
少し焦りながらも少し自信なさげに呟く大妖狐の娘に犬神は優しく微笑んでくれた。
「良いことだと思いますよ♪…でも…それを叶えるのはとても大変なことだと思います…それでもあなたは…それを貫き通す自信があるんですか?」
とても真剣な目で見つめてきた。だが考えるまでもなく、見つめ返し、
「わたしにはなにもなかった…だけどあのこがわたしにしあわせをおしえてくれた……だからわたしは…あのこといっしょにいたい…もっともっと…いっぱいいっぱいしあわせをしりたいの…だからわたしはつらぬきとおすよ!だれになんといわれようと…わたしはまけない!」
言葉にするたびになぜか心がいっぱいになってきた。自信になった。そんな自分に犬神は微笑んで、
「…ふふっ♪素敵です…及ばすながら、私にもお手伝いをさせてください。あっ…まだ名乗ってもいませんでしたね…私はなでしこです」
優しく…優しく微笑むなでしこに、
「わたしはようこ…ようこだよ!よろしくね、なでしこ♪」
それは初めて見せたようこの満面の笑みだった。
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