序章 月影深澄

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「良かったぁ…すいません、僕…こうやって質問責めにしちゃう癖があって」 ふわぁっと、花が咲くような笑顔で皆守くんが笑った。 …かわいい。 薄いマロン色の跳ねた猫っ毛に、顔は幼くて、なりたての中学生って感じ。 なんか、どっちかっていうと可愛い系の男の子だ。 「うん、いいよ」 なんだか和んでしまって、顔の筋肉がゆるくなる。 その時、 キーンコーンカーンコーン。 「あ…」 教室に、授業終了のチャイムが鳴り響いた。 すると、 「深澄ちゃん、帰ろー」 鞄を持った明日菜がこっちにきた。 それから隣の皆守くんを見て、 「あ、ども」 「どうも」 軽く挨拶を交わす。 ご近所さんみたいだと思ったのは私だけ? 「それじゃあ、気を付けて帰って下さいね」 にこ、っと皆守くんが微笑む。気を付けてだって、優しい子だな。 「うん…ありがと、バイバイ」 私も手を振って、彼に背を向ける。 「はい。…さようなら」 その言葉を聞いて、私は歩き出す。明日菜もついてくる。 「深澄ちゃん家ドコー?」 「麻宮だよ」 そんな会話をしながら歩いていく。 …この時、 「やっと接触できた…」 歪んだ笑みを浮かべる彼の言葉が、 私には届いていなかったんだ。
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