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「っく…ひっく」
七歳くらい…まだ小さな男の子が、公園の真ん中で泣いている。
「どうしたんだろう…」
心配だったので話しかけてみることにした。
茂みの方を回って、入り口から公園に入っていく。
後ろから近付いて、
「どうしたの?」
私はその子の隣に立った。覗き込んで話しかける。
「…ひっく、っく…」
「お母さんとはぐれたのかな?…迷子になっちゃった?」
腰を曲げ、同じ目線で問うけれど…全く答えてくれない。男の子は泣きじゃくったままだ。
「う…っ」
涙をぼろぼろ流す黒髪のその子に、私は手を伸ばした。
頭に手を置いて、ゆっくりと撫でる。それから背中をさすってあげて、
「大丈夫だよ。怖くないから…」
その瞬間。
ガシッ。
「…え」
ギリギリと右腕を締め付けられる感覚に、痺れを覚えた。
男の子が私の腕を小さな手で掴んでいる。そして、悪魔のように口の端をつり上げて笑っていた。
「な…」
「キャハハハッ」
男の子は機械のような甲高い笑い声を上げると、鋭い牙で私の腕に噛みついた。
走る、熱い痛み。
「っう!?」
反射的に身を引いて、すぐさま牙から逃れる。
噛みつかれた箇所からは血が流れていて、ポタポタと地面に滴り落ちた。
「な、なに…!?」
「キィ、キッ…キャハ」
男の子の首ががくんと折れ曲がり、顔や首に筋が立ってゆく。目は虚ろで、指先からは鋭い爪が伸びていた。
足が、すくむ。
普通じゃない。
恐怖から動けなくなって、体の震えが止まらない。
その間にも男の子…いや、人の形をした獣みたいな何かが、近寄ってくる。
口から垂れている唾液と、牙。
「い…や…」
叫ぶにも声が出なくて、距離は縮まっていくばかり。
「キ…キヒヒッ!!」
だん、とそれが跳躍して、一気に近付いてきた。
振り下ろされる、爪。
直撃する。
…私、死ぬの?
いや、だ。
死 に た く な い !!
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