序章 月影深澄

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私は夜がすきだ。 月の輝き、星の煌めきも。 おぼろげに夜の空を包み、流れてゆく雲も。 そして、優しく髪や頬を撫で…すり抜けていく、暖かで時に冷たいこの風も。 愛おしくて、綺麗だと思う。 この時間がずっと続けばいいのにって願う。 夜を愛している私は、少し変わっているのかもしれない。 「…それは、貴女が一番夜に栄えるからではないんですか?」 隣で同じく月を眺めている彼が、ゆっくりと私に語り掛けた。 そうかな? 視線を夜空に戻してそう返す。 「月の名を借りた貴女が、何か近いものとして…この時間に魅入っているのかも知れませんし」 名前… 「さ、そろそろ休みましょう。名残惜しいのは判りますが、変わらずにまた夜は訪れます」 うん… 私は少年の声に頷いて、目を閉じる。 …また逢いましょう、深澄さん…。
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