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「ごちそうさまでした」
しっかりと手を合わせてから、私は立ち上がる。
「美味しかったです、ありがとうございました」
食器を洗っている家政婦さんにお皿を渡し、ついでにお礼を言った。
「あら、いいのよお礼なんて」
家政婦さんが微笑みながらそれを受け取り、私はきびすを返して皆守くんの方へ行く。
…ちなみに、あれから約一時間半くらい経過した。私も服を着替え、首の傷を手当てしてもらい、ご飯を食べたというわけだ。
…で、自室に戻ろうかと思っていたけれど、上へ上がる階段ではなく、地下の方に向かっている皆守くんに、
「ねぇ、どこいくの」
と私は呼びかけた。
すると皆守くんは階段を下りながら振り返って、
「いえ、ちょっと挨拶に。…貴女も来ますか?」
「へ?」
…というわけで案内された地下一階は、上とは全然違って暖かみがない。
全体的に壁や床は白いタイルみたいなので囲われ、機械的な雰囲気を醸し出している。
「なんか…進化した病院みたいね」
その様に眉根を寄せながら、私はこぼした。
「まあ、病院みたいなもんですし」
パーカーのポケットに手を突っ込みながら、皆守くんが答える。
「…医療施設ってこと?」
隣に並び、問いかけた。そういえば研究、医療施設を兼ねているって言ってたよな。
「そんな感じですよ。…普通の医者じゃ診れない病状や病気にかかった子供がくる…ね」
「普通じゃ診れない…って」
その言葉が引っかかって、私は怪訝な顔をした。皆守くんは何かを見つけたような表情で前を見る。それから、
「万琴」
まこと?
口から出された言葉に、私も前を見た。
…居たのは小学校低学年位の男の子で、壁に手をつきながら歩いている。
「あ…千郷さん」
どこか儚げな印象を与える、雪のように真っ白な肌をした少年が、皆守くんに微笑んだ。
「何してるんですか?祈零はどうしました」
彼に歩み寄って、皆守くんも優しい微笑みを向ける。
「んー…今日の運動。お兄ちゃんはご飯食べてます」
幼いが、どこか大人っぽい静さを含んだ眼差しで、少年が私を見やる。同時に澄んだ子供らしい声で、
「あなたは何てお名前ですか?新しく入ってきた人?」
聞かれて、私ははっとなる。
「私は…」
「万琴!」
自己紹介しようとした時、声が聞こえた。
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