490人が本棚に入れています
本棚に追加
それから怪魔を見据えると、
「…じゃあ行きますか」
そう言って彼は跳躍し、鎌を横に振る。怪魔に確かな斬撃を与えると、皆守くんは素早く背後に回った。
怪魔も爪を振り下ろして反撃するも、皆守くんは片膝を付いてしゃがみながら攻撃を避け、さらには下から突き上げて腕をもがいた。
ゴトリと地面に怪魔の太い腕が落ち、黒い液が吹き出す。
「すご…」
皆守くんの小さな体を駆使した動きはなめらかで、何ていうか隙がない。
呑気に私がそんな事を言っていると、痛みに呻く怪魔がこちらを見た。
「ひっ…」
凶悪な目つきに私が悲鳴を上げて、怯えを察したのか怪魔が哮りながらこちらに走ってきた。
「させません」
タンッと床を蹴る音がして、
皆守くんが鎌を横になぎ払う。
眼前の、今まさに爪を振り下ろそうとしていた怪物の背からは黒い液が吹き出て、同時に叫びのような断末魔。
…その時、冷酷な眼差しで怪魔を見据える皆守くんが見えた。
「グァオオォォ…」
ドシャ!!
地面に怪物が横たわり、その重量で鈍い音がする。
とくとくと黒いものを流れ出すその怪魔はやがて固まり、石のようにパキンと割れた。
「…終了」
顔にかかった黒いものを皆守くんは袖で乱暴に拭い、静かな恐ろしさを感じさせる…深緑の瞳で私を見つめた。
魅入ってしまいそうな位妖しくて、けれど暖かさの欠片も無いそれは、まるで機械のよう。
「皆守くん…?」
彼が誰なのか少し不安になり、私は呼び掛けた。
「なんですか?」
…ああ、彼だ。
小首を傾げて可愛らしく微笑んでみせる、この少年は間違い無く皆守千郷なのに。
こ わ い。
どうしてだろう。
底冷えのように冷たい恐怖感に襲われて、私は動けなくなった。
「ふぅ…」
鎌から手を離し、それが前と同じように光の粒になって私の中に戻っていく。
「…どうしたんですか?月影さん。腰でも抜けました?」
きょとんとした顔で歩み寄ってくる。怪物の黒い血に濡れた手が私の顔に伸びて、
「…っ!!」
ふいに、目を瞑ってしまった。…叩かれる訳でも無いのに。
最初のコメントを投稿しよう!