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「あったりぃ♪」
明日菜はそう言うとぱっと背中を離し、私はハグから解放された。
「あ、皆守くんもおはよ!」
「おはようございます、陽向さん」
気付いた明日菜が皆守くんに挨拶し、彼も微笑み返す。私はその傍らで上履きを履き、
「ったく…朝から元気ね」
呟きながら振り返って、彼女の方を向く。
「…って」
…後ろに立たれて居るときには見えなかったけど、明日菜は太ももに大きなガーゼを貼っていた。
「あんた、どうしたのその脚」
よく見ると、靴下で隠れている部分にも湿布のようなものが見える。
「ぇ?あ、ちょっとすっ転んでさぁ」
あははは、と笑いながら明日菜が言った。…やりかねなさそうだけど、転んでこんな風になるか?
「…」
隣の皆守くんが、何故か怪訝な顔をしていた。
「…じゃ、僕先行ってますね」
言い残し、彼は足早に去っていく。私は黙って背中を見送るだけだった。
「わたしたちも行こう?」
明日菜が促したので、私も頷いてゆっくりと歩き出す。
「大丈夫なの?痛くない?」
途中で聞いたけれど、明日菜は全然平気と言ってまた笑う。
その笑顔が無理をしているように見えたのは、気のせいだろうか。
「う~…今日寝坊して朝ご飯食べてないよ~」
「昼までガマンだねぇ…ちゃんとお弁当持ってきた?」
「コンビニでパン買ってきた。グラタンコロッケ!」
「グラタン入ってんだ」
他愛ない話をして、和やかな気持ちになる。
おしゃべりをしている時の明日菜はいつも通り明るくて、楽しい雰囲気にさせてくれるのに…
私はこの子に何か、違和感のようなものを感じていた。
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