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◆
ざわざわと喧騒が耳につく昼休みの教室で、千郷は問うた。
「じゃあ…確認したんですか」
その言葉に、問われた少年が苦虫を噛み潰したような表情で顔を横に振る。
「当たりだった」
少年らで囲んでいる机に乗せた拳を握りしめて、言った。
「本当に見たんだな、多壱」
千郷の横…廊下側の端に椅子を置き、サンドイッチをかじる祈零が尋ね返す。
「見たよ…男親らしい奴が、殴ってたんだ。何度も…」
多壱と呼ばれた黒髪の少年は、そう言うと唇を噛みながら俯いた。まるで何かを悔やんでいるかのように。
「…日輪と接触を図れ、が設楽さんの命令だ。君の任務」
静かな澄んだ声で百重が告げると、多壱はわかってる、と返事をする。
「やり遂げるさ。…だから俺達はチェインに居るんだ」
◆
「ふわぁ…」
放課後。
私はついさっき授業が終わり、気の抜けた欠伸をしていた。
なんたっていい天気だし暖かいし、春は眠い。
「月影さん」
「うぃ?」
うーんと大きく背伸びをしていると、横から皆守くんが話しかけてきた。
「今日は一緒に帰りませんか?話したいこともありますし」
「え…別にいいけど、明日菜も一緒だよ?」
そう言った直後、本人がご登場した。
「深澄ちゃん、かえろー」
鞄を持ち、テケテケと歩いてくる。
「明日菜、今日はみな…むぐっ」
「ごめんなさい陽向さん。僕、月影さんに用事があるので…先に帰ってもらえますか」
後ろから口を手で塞がれて、私は黙った。明日菜はへ?と小首を傾げたが、
「うん、わかった。二人ともまたね」
そう言うと手を振って去っていく。皆守くんはやっと手を離し、私はぷはっと息を吸った。
「何すんのよ!!」
呼吸しながら怒鳴ると、皆守くんはいたって冷静な顔で、
「あの人に聞かれると困るんですよ」
有無を言わせない、冷酷な声で返した。
「…機密事項?」
「まぁ、そんな感じです」
「朝は思いっきり神器の話してたじゃない」
「あれはいいんですよ。…それに、端からじゃ何の話かわからない」
反論したけど、さらりと返されて私は黙る。
「今回はあの人…陽向さんについてですから」
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