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「え?」
何であの子の話が出てくるんだと私は耳を疑ったけれど、今の皆守くんは冗談を言うような顔でもない。
揺らぎのない冷静さが垣間見えてる。
「とりあえず場所、変えませんか」
…と言われて訪れた公園は、あの時私が初めて怪魔に遭った所だ。
怪魔が突っ込んで壊したはずの花壇は、綺麗に修復されていた。皆守くんいわく、怪物の痕跡を残さない為だそうだ。
「僕らが住んでる世界に…特撮みたいな怪物が存在してるなんて知ったら、みんな困惑するでしょう?」
ブランコに乗りながら、皆守くんが言った。
あれには私も驚いたな。すっごく怖かったし。
「かといって普通の人間や警官には倒せません。特殊な訓練を受けたりしたエキスパートにしか、退治は出来ない」
「へー。で、皆守くんはそのエキスパートなの?」
ブランコを軽くこぎながら、私は問いかけた。朝に答えてもらえなかった質問。
「…いえ、僕はもう人間の域を越えているので」
「なにそれ。天才って事?」
「ーーははっ。…だといいんですけどね」
可笑しそうに笑うと、皆守くんは立ち上がる。
横顔がどこか寂しそうだった。
「それより、陽向さんの話に移りましょうか」
「…うん」
微笑を向けられ、私も立つ。
空を見ると茜色が綺麗に雲を照らしていて、夕方らしい涼やかな風が脚や頬を撫でた。
やがて皆守くんが口を開き、話を始める。
「率直に言いますと、あの人は神器を持っている可能性があります」
「…な」
明日菜が神器を…?
「そんな、だって神器は…」
「陽向さんは八年前、交通事故に遭われたそうですよ」
事 故。
「トラックに退かれて、右脚が酷いことになったらしいです。もう使い物にならない…ってね」
「でも、明日菜に何か大きい精神的なショックを受ける出来事が、あったっていうの?」
いくら純粋な子供といえ、事故だけじゃそこまで追い詰められない筈だ。
「…彼女の家は、両親の仲が悪かったらしいんです。父親がね、凄かったって」
ま さ か。
ーーすっ転んでさぁ。
「虐、待…?」
私は、自然とその言葉を口からこぼしていた。
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