第4章 一緒に登校、一緒に下校

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「はい。陽向さんの母親は、ずっと夫から暴力を受けてたらしいんですけど、出て行っちゃったんですよ」 皆守くんは眉間にシワを寄せ、重苦しい表情で続ける。 「陽向さんが事故に遭って、入院してる間に」 母親が、娘を見捨てたのか。 ストレスを身内への暴力で発散させる父親。逃げた母。当然次の矛先は… 明日菜だ。 「あの傷は」 「恐らく父親でしょう。…表では良い人らしいんです。ちゃんと働いてますし」 飾り立てた外面での苛立ち、歪みを…家族に当てる事で保っている。 私は、腹の中で何かが煮え立っているのがわかった。 「ずっとそんな父親を見ていたら、心の負担も大きいでしょうね。更に母親にまで見捨てられたら、どうします?」 「狂うね。私なら父親の喉笛をかっさばいてるよ」 許せない。 幼い子供は親を信じきっているのに、その親に裏切られる、殴られる。 「その痛みに打ち勝とうとした。だから彼女は神器を持っています。…でも」 皆守くんの逆接の言葉に、私は反応した。 「このままじゃその負担に耐えられず、精神が崩壊してしまいます」 「っ…」 思った通りの答え。 いくら強くとも、耐えられないほどの苦痛や痛みを与えられ続ければやがて心を病んでしまう。 「そこで一つ、月影さんに手伝ってもらいたいんですよ」 「手伝う?」 何か明日菜を助ける手だてでもあるのか。 「今、僕の仲間が護衛と監視を兼ね、彼女と接触を図ってます。それで虐待の証拠になる事を聞き出せればいいんですけど…」 「私からも、念のために聞いといてってこと?」 「はい…僕らはあまり親しくないので、貴女が適しているかと」 確かに、そういう事はあまり他人に聞かれたくないだろう。 虐待の証拠や明日菜自身の意志があれば、チェインで保護できる。 「…わかった」 私は頷くと、しっかりと返事を返した。 …不思議だ。 なったばかりの友達なのに、こんなに大切に思えるなんて。 虐待の事を聞いて、明日菜が本当に心配になった。 …なんか、惹きつけられるような感じがしてやまない。 単純に好いているというのもあるけど、自分の中の何かが彼女と呼応しているみたいな… 「月影さん、帰りましょう」 そう言って皆守くんが歩き出したので、私も後をついて行った。
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