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私は皆守くんにムカッときたけれど、その言葉にちょっと安心した。
やっぱりそういうの…怖い。
「でも…」
皆守くんが近づいてきて、
「場合によっては狼になっちゃうかもしれません。基本僕Sなんで…覚悟して下さいね?」
耳元で、囁かれる。
何か変なモノがこみ上げてくるのがわかって、それが熱みたいに私の体温をまた上げた。
「…場合ってなによ」
微笑んでいる彼を睨みつけて、私は言った。抵抗のつもりだけれど、彼は全く気にしていない。
「そうですねぇ…あんまり可愛く泣いちゃったりすると押し倒しますし、言うこと聞かないとお仕置きします」
えげつないことをサラッと言うな!
「…皆守くんなんか大っ嫌い」
「真っ赤になって言われても、説得力無いですよ」
「もう知らないっ!」
「ご飯になったら迎えに行きますねー」
何であんな事言うんだよ!!
ホントわけわかんないヤツだ。
階段をドタバタと上りながら、私は部屋に駆け込んだ。
◆
「可愛いなぁ」
走り去る少女の後ろ姿を見ながら、千郷は呟いた。
「なんだ千郷、また月影虐めたのか?」
「祈零」
階段を上ってくるメガネの少年に、千郷は振り向く。
「聞いてました?」
「話は聞こえなかったけど、月影が機嫌悪そうに走ってったからな」
ふぅ、とため息をつき、中指でずれたメガネを直す。そのまま階段を上りきって、
「可愛いですよね、あの人」
「可哀想だと思うけど」
「跪かせて泣かせたいです」
「てめーの性癖は聞いてない」
呆れながら祈零が千郷の隣を通り過ぎたとき、
「祈零」
「あ?」
名前を呼ばれ、振り返る。
「僕は人間ですか?」
その質問に、祈零は一瞬目を丸くした。
それから、
「…お前は人間だよ。鬼畜だけど、皆守千郷は人間だ」
そう言って去っていった。
ただの問いかけと、答え。
「…だといいな」
呟いて、千郷も歩き出した。
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