第5章 健気さと儚さ

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       ◆ 「じゃあ、陽向さんの事はお願いしますね」 「言われなくてもわかってる」 私は教室に着いて、机にドカッと鞄を乗せた。 『気を付けないと僕も、月影さんのこと食べちゃうかもしれません』 あんな事があってから、私は皆守くんに話しかけられてもつっけんどんに返していた。 ちなみに彼は全く気にしていない。いつものように微笑を浮かべながら話しかけてくる。 …これがまた憎い。 「ふぁ~…」 おっきな欠伸をして、皆守くんは頬杖をついた。ぼんやりしながら時計を見ている。私はと言うと本を読んでいて、明日菜が来るのを待っていた。 ガラガラ… しばらくしてドアを開ける音がして、私と皆守くんが振り返った。 「え…」 明日菜、だ。 だけど、生気のない目をして、向かって左の頬には大きなガーゼ。 「どうしてっ…」 私は立ち上がって、すぐに駆け寄る。皆守くんもこちらを見ていた。 「あんた、どうしたのその顔」 「あ、深澄ちゃんおはよう」 目の前に立って詰め寄ったけれど、明日菜は微笑むだけ。良く見ると首にも絆創膏がある。 隣をすり抜けて明日菜は自分の席へ行く。私も後をついて行った。 「…何でガーゼ貼ってるの」 もう一度尋ねると、明日菜はぴくっと反応して、 「ちょっとぶつけた」 そう言って笑う。 嘘、でしょ? 「電柱にゴンってやっちゃってさー。あはは、バカだよね」 殴られたんでしょ。 「あ、そうだそうだ。今日面白いニュースやっててさ」 「明日菜」 名前を呼ぶと、明日菜は話すのをやめた。 「どうして、傷が増えてるの」 「…さっき言ったよ?電柱にぶつかった。それだけ」 何で笑うの? 問いただしたら、明日菜が壊れてしまいそうで。 誰でも不審に思うような傷を、本人は馬鹿みたいに嘘で隠してる。きっと、これが当たり前なんだ。 「…っ」 私は唇を噛み締めた。 虐待受けてるんでしょ、なんて言えるわけ無い。 彼女を…傷付けてしまう。 「わたしドジだから。ごめんね心配かけて」 俯く私に、明日菜が微笑みを向けた。 潰れてしまいそうな位暖かで、優しい笑みを。 今私が出来る事は、彼女を不安にさせない事だ。 「…気を付けなよ」 「うんっ」 明日菜が元気に返事をした。 今はこれでいい。 …絶対助けてあげる、明日菜。
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