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◆
「じゃあ、陽向さんの事はお願いしますね」
「言われなくてもわかってる」
私は教室に着いて、机にドカッと鞄を乗せた。
『気を付けないと僕も、月影さんのこと食べちゃうかもしれません』
あんな事があってから、私は皆守くんに話しかけられてもつっけんどんに返していた。
ちなみに彼は全く気にしていない。いつものように微笑を浮かべながら話しかけてくる。
…これがまた憎い。
「ふぁ~…」
おっきな欠伸をして、皆守くんは頬杖をついた。ぼんやりしながら時計を見ている。私はと言うと本を読んでいて、明日菜が来るのを待っていた。
ガラガラ…
しばらくしてドアを開ける音がして、私と皆守くんが振り返った。
「え…」
明日菜、だ。
だけど、生気のない目をして、向かって左の頬には大きなガーゼ。
「どうしてっ…」
私は立ち上がって、すぐに駆け寄る。皆守くんもこちらを見ていた。
「あんた、どうしたのその顔」
「あ、深澄ちゃんおはよう」
目の前に立って詰め寄ったけれど、明日菜は微笑むだけ。良く見ると首にも絆創膏がある。
隣をすり抜けて明日菜は自分の席へ行く。私も後をついて行った。
「…何でガーゼ貼ってるの」
もう一度尋ねると、明日菜はぴくっと反応して、
「ちょっとぶつけた」
そう言って笑う。
嘘、でしょ?
「電柱にゴンってやっちゃってさー。あはは、バカだよね」
殴られたんでしょ。
「あ、そうだそうだ。今日面白いニュースやっててさ」
「明日菜」
名前を呼ぶと、明日菜は話すのをやめた。
「どうして、傷が増えてるの」
「…さっき言ったよ?電柱にぶつかった。それだけ」
何で笑うの?
問いただしたら、明日菜が壊れてしまいそうで。
誰でも不審に思うような傷を、本人は馬鹿みたいに嘘で隠してる。きっと、これが当たり前なんだ。
「…っ」
私は唇を噛み締めた。
虐待受けてるんでしょ、なんて言えるわけ無い。
彼女を…傷付けてしまう。
「わたしドジだから。ごめんね心配かけて」
俯く私に、明日菜が微笑みを向けた。
潰れてしまいそうな位暖かで、優しい笑みを。
今私が出来る事は、彼女を不安にさせない事だ。
「…気を付けなよ」
「うんっ」
明日菜が元気に返事をした。
今はこれでいい。
…絶対助けてあげる、明日菜。
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