第5章 健気さと儚さ

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       ◆ 「つまり…怪我の話題に触れられる事を頑なに拒んでいると」 夕方。 学校が終わり、私と皆守くんは家に帰宅した。 そして一階の居間で、今日の明日菜について意見交換している。 「要報告ですね。本人が耐えるつもりなら、安易に核心へ近付けませんし」 「でも、そんなんじゃ明日菜がもたないよ」 囲んでいるローテーブルに置いたお茶を眺めながら、私は言った。 確かに他人である私達が簡単に踏み込める問題じゃないんだけど、やっぱり早く助けてあげたい。 「何とかお父さんのこと話してもらえる展開に持っていけないかな~…」 座っている黒革のソファーの肘置きにもたれ、私ははぁっとため息をつく。 「無理矢理聞き出しちゃえば良いじゃないですか。手っ取り早いし」 向かいの一人用のソファーで脚を組んでいる皆守くんが、温かいココアをマグカップで飲んでいる。 「そんな事出来たらとっくにやってる…」 「根性無しですね」 「うぅ…」 反論する気も失せて、私はただ黙り込む。 「おや、貴女が言い返さないとは珍しい」 「…」 「月影さん?」 皆守くんが私の名前を呼ぶ。答える気力がなくて、私は何も言わなかった。 「…」 皆守くんが静かにマグカップをテーブルに置き、こちらへ回ってくる。 それから私の隣に座り、こちらを覗く。 「なによ」 愛想なくそれだけ言って、私は俯いた。 「落ち込んでるんですか?」 その声にぴくりと反応して、顔を上げる。彼を見ると、穏やかな顔で微笑んでいた。 「…悪い?」 そう返してふいっと視線を前に戻す。するといきなり横から何か衝撃みたいなのが来て、 「うあっ」 私はドサッ、と勢い良く上半身をソファーに倒す。…と言うか倒される。 「いた…」 横に倒れて、しかも何か重い。 顔をその重いものに向けると、それは皆守くんだった。
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