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◆
「つまり…怪我の話題に触れられる事を頑なに拒んでいると」
夕方。
学校が終わり、私と皆守くんは家に帰宅した。
そして一階の居間で、今日の明日菜について意見交換している。
「要報告ですね。本人が耐えるつもりなら、安易に核心へ近付けませんし」
「でも、そんなんじゃ明日菜がもたないよ」
囲んでいるローテーブルに置いたお茶を眺めながら、私は言った。
確かに他人である私達が簡単に踏み込める問題じゃないんだけど、やっぱり早く助けてあげたい。
「何とかお父さんのこと話してもらえる展開に持っていけないかな~…」
座っている黒革のソファーの肘置きにもたれ、私ははぁっとため息をつく。
「無理矢理聞き出しちゃえば良いじゃないですか。手っ取り早いし」
向かいの一人用のソファーで脚を組んでいる皆守くんが、温かいココアをマグカップで飲んでいる。
「そんな事出来たらとっくにやってる…」
「根性無しですね」
「うぅ…」
反論する気も失せて、私はただ黙り込む。
「おや、貴女が言い返さないとは珍しい」
「…」
「月影さん?」
皆守くんが私の名前を呼ぶ。答える気力がなくて、私は何も言わなかった。
「…」
皆守くんが静かにマグカップをテーブルに置き、こちらへ回ってくる。
それから私の隣に座り、こちらを覗く。
「なによ」
愛想なくそれだけ言って、私は俯いた。
「落ち込んでるんですか?」
その声にぴくりと反応して、顔を上げる。彼を見ると、穏やかな顔で微笑んでいた。
「…悪い?」
そう返してふいっと視線を前に戻す。するといきなり横から何か衝撃みたいなのが来て、
「うあっ」
私はドサッ、と勢い良く上半身をソファーに倒す。…と言うか倒される。
「いた…」
横に倒れて、しかも何か重い。
顔をその重いものに向けると、それは皆守くんだった。
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