序章 月影深澄

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「…ていうか体育館行かない?遅れるし」 いいかげん歩き出したいので彼女を促すと、 「あ。それもそうだよね…ごめんごめん」 また陽向さんは笑って、私の手を離した。 「なんか、ごめんね。いきなり友達になってとか言っちゃって」 脚を止めず、彼女が言う。確かにいきなりそんな事を言われたら、誰だって動揺するだろう。 謝罪をするあたり、何か私に思うところでもあったのかもしれない。 「…別にいいよ。そんな気にしてないし」 あんまりこだわる訳でもないので、さくっと返す。 「そっか。良かった」 そう言うとまた彼女は笑った。愛想笑いとか、そんなのではない…純粋に嬉しい時に出るような、きれいな笑みだ。 やがて体育館について、まだ何も告げられていない私達は、そこで紙を配られた。 先生や上級生が配布しているそれには、クラスやら出席番号やらが載せられていて、どうやらそれの通りに並ぶらしい。 私は、4組の11番。 「あ、わたしと深澄ちゃん一緒のクラスだよ」 先程友達になったばかりだけれど、いきなり名前にちゃん付けをする陽向さんが言った。 「陽向さんも4組?」 「明日菜でいいよ。うん、19番」 ホントだ。渡された紙に名前がちゃんとある。 …まあ、これで休み時間の退屈の心配とかはしなくてもいいかな。 「やたっ、深澄ちゃんとおんなじクラスー♪」 嬉しそうにはしゃいでいる。 この子は多分明るくて可愛がられるタイプの…私と正反対な子なんだろうな。 何だかそんな彼女を見ていると、私もだんだんと嬉しくなってきた。 「えーと、4組あっちだって。行こ?」 手招きをする陽向さん…もとい明日菜について行って、出席番号順に並ぶ。 出席番号が私は前なので、一旦バイバイ、と手を振って別れた。 それから10番の女の子と12番の男の子の間に入って、 退屈な校長先生の話が始まり、私は適当にぼんやりしながら入学式を終えた。
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