序章 月影深澄

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       ◆ 「ふわぁ…」 入学式の長い話やらなんやらが終わり、やっとクラスに案内された。 「えー、今日からこの一年四組を担当することになった、谷崎だ。よろしくな」 教卓の前に立って挨拶をしているのは、ちょっと太った中年の男性。 ざっと先生が好きな食べものは天ぷらだとか、趣味はゴルフだとか、どうでもいい自己紹介が終わって、 「んじゃ、教科書とか適当に配って後は自習な。親睦でも深めてくれー」 そう言うと谷崎先生はトントンと教科書の束を取り出し、前から配っていく。いわゆる後ろに回していくアレ。 「はい」 「おー」 何度かそんなやり取りを繰り返し、最後に数学の教科書を後ろの男子に渡したとき、 ドサドサドサッ。 派手な音がした。 「ん?」 右隣の男の子が教科書を落としたみたいだ。 「すいません」 後ろの女の子に謝って、男の子はそれを椅子に座ったまま拾っていく。 一冊こっちに飛んできていたので、私もそれを拾った。 軽く払って、 「はい」 男の子に渡した。 「あ…すいません」 男の子はそれを受け取ると、自分の机に置いて残りを女の子に回す。 私もそれを見てまた前を向く。先生がいない。職員室に帰ったみたいだ。 ちなみに黒板には白いチョークで大きく、 『10時50分まで自習、チャイムが鳴ったら帰ってよし』 と書かれていた。 10時50分。あと15分くらいか… …ぼーっとしとこ。 頬杖をついてぼんやり時計を見ていると、 「あの」 横から声がした。
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