序章 月影深澄

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「ん?」 頬杖をついたまま、顔を声の方に向ける。 右隣の本を落とした男の子だ。 「なに?」 こちらを見ているその子に聞くと、 「さっきはありがとうございます。拾ってもらって」 にっこりと男の子が笑った。わざわざお礼なんて言わなくていいのに。 「いいよ。一冊だけだし」 素っ気なく返して前を向くと、 「名前何ていうんですか?」 「へ?」 まさかまだ話しかけられると思わなかったので、私は目を丸くして聞き返した。 「僕は皆守千郷(ミナモリチサト)です。貴女の名前は?」 尋ねられて、 「え…と、月影深澄…です」 「みすみ…綺麗な名前ですね」 男の子が微笑む。 「…どうも」 何て反応したらいいんだ。 わからなかったので、私はとりあえずどうもで返した。 「中学はどこですか?」 「麻宮第一中だけど…」 「そうなんですか」 何で話しかけてくるんだ。 そして何でニコニコしてるんだこの子は。 「月影さん、公立の中学から来たってことは、頭良いんですね」 「別にそれ程でもないけど」 「どこに住んでるんですか?家族構成とかは?」 …待って。 これは取り調べですか? 私は痺れを切らし、 「…あんま関係ないよね?」 質問責めしてくる男の子…もとい皆守くんに、言った。 すると皆守くんは、眉を八の字の形に寄せて、 「あ…ご、ご迷惑でした…?」 瞳を潤ませて、こちらをじっと見つめてきた。 ちなみに子犬のような顔で。 「え…あ、いや、迷惑ではないよ、全然」 彼に悪いことをしてしまったようで、私は全力で否定する。 なんか、今一瞬捨てられている子犬に出逢った気分になったんだけど。
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