第一話 お嬢様には用心を

3/36
前へ
/70ページ
次へ
「ボロい家だな」  とりあえずリカルドは自分の家に招いたのだが、彼女の第一声はそれだった。 「……まぁ確かに安いアパートっすけどね」  項垂れつつもリカルドは明かりを付け、タオルを彼女に手渡す。そして改めて彼女を見た。  ゴミ捨て場で倒れていたのに、赤く長い髪は艶やかだった。破れて露出過多な部分から覗くしなやかな四肢は、確かに生傷は多い。だが致命傷は見受けられなかった。今も一人で平然と立っている。  そんな彼女は不機嫌そうに、 「なんだ? 私の顔に何かついているか?」 「あ……いえ。ただどうしてあんな所で倒れていたのかと思って」  すると彼女は腕を組み、リカルドを見下した。 「私は倒れてなぞいない。休んでいただけだ」 「けど俺に助けてって……」 「お前が私を助けたそうに見ていたからな、背中を押してやっただけだ」 (偉そうに。何様のつもりなんだよ)  そう思いつつもリカルドは口に出さず、もう一度彼女を見る。 「まぁ元気ならいいっす。けどその格好のままってわけにはいきませんよね、ひとまず服を貸しますよ」 「チビの服が私に似合うとは思わないが、有り難く借りてやる」 「チビ……っ!」  言われて、リカルドは窓ガラスに映る自分たちを見た。  こざっぱりした髪型、格好の割りに、なかなか整っていると言われる容姿。もう少しいいものを着れば様になる自信がリカルドにはあった。  実際に彼女のように栄える色彩を持っているわけではない。髪はとび色、瞳は群青色。煌びやかさが足りないが、造形は完璧に近いものがある。 (当たり前だよな……)  しかし確実に彼女よりも背が低い。頭ひとつ分――とは言わないが、指の長さほど低い。彼女も取り立てて背が高いわけでもないのに。 (気にしないようにしていたのに)  歯ぎしり立てそうになるのをぐっと堪えて、リカルドは適当な服を用意する。  が、彼女は、 「コートか何かないのか? どうせ丈が足りないんだ。ひとまずはそれで構わん」 「ずぶ濡れなんすから、風邪引かないでくださいよ……黒のトレンチでいいっすか?」 「あぁ。結構だ」  そしてリカルドは乱雑にコートをハンガーから外し、彼女へ投げ渡した。
/70ページ

最初のコメントを投稿しよう!

161人が本棚に入れています
本棚に追加