161人が本棚に入れています
本棚に追加
「ボロい家だな」
とりあえずリカルドは自分の家に招いたのだが、彼女の第一声はそれだった。
「……まぁ確かに安いアパートっすけどね」
項垂れつつもリカルドは明かりを付け、タオルを彼女に手渡す。そして改めて彼女を見た。
ゴミ捨て場で倒れていたのに、赤く長い髪は艶やかだった。破れて露出過多な部分から覗くしなやかな四肢は、確かに生傷は多い。だが致命傷は見受けられなかった。今も一人で平然と立っている。
そんな彼女は不機嫌そうに、
「なんだ? 私の顔に何かついているか?」
「あ……いえ。ただどうしてあんな所で倒れていたのかと思って」
すると彼女は腕を組み、リカルドを見下した。
「私は倒れてなぞいない。休んでいただけだ」
「けど俺に助けてって……」
「お前が私を助けたそうに見ていたからな、背中を押してやっただけだ」
(偉そうに。何様のつもりなんだよ)
そう思いつつもリカルドは口に出さず、もう一度彼女を見る。
「まぁ元気ならいいっす。けどその格好のままってわけにはいきませんよね、ひとまず服を貸しますよ」
「チビの服が私に似合うとは思わないが、有り難く借りてやる」
「チビ……っ!」
言われて、リカルドは窓ガラスに映る自分たちを見た。
こざっぱりした髪型、格好の割りに、なかなか整っていると言われる容姿。もう少しいいものを着れば様になる自信がリカルドにはあった。
実際に彼女のように栄える色彩を持っているわけではない。髪はとび色、瞳は群青色。煌びやかさが足りないが、造形は完璧に近いものがある。
(当たり前だよな……)
しかし確実に彼女よりも背が低い。頭ひとつ分――とは言わないが、指の長さほど低い。彼女も取り立てて背が高いわけでもないのに。
(気にしないようにしていたのに)
歯ぎしり立てそうになるのをぐっと堪えて、リカルドは適当な服を用意する。
が、彼女は、
「コートか何かないのか? どうせ丈が足りないんだ。ひとまずはそれで構わん」
「ずぶ濡れなんすから、風邪引かないでくださいよ……黒のトレンチでいいっすか?」
「あぁ。結構だ」
そしてリカルドは乱雑にコートをハンガーから外し、彼女へ投げ渡した。
最初のコメントを投稿しよう!