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「げっ……」
彼女がそれを羽織ると、リカルドは思わずそんな声をあげてしまう。
似合っていた。とてつもなく。
ストレートの真っ赤な髪に、獰猛な獣の如き同色の瞳が、黒にひときわ映えていた。
「けど暗殺者みたいっすね」
「なんだ? お前は頬にも口が欲しいというのか?」
リカルドが思わず漏らした感想に、彼女はちゃきっと銀の小銃を構える。
「……どこから取り出したんすか」
「女には秘密が多いものだ。さて、新たな口の大きさはどの程度が所望だ? お望みというのならば爆弾で開けてやってもいいが?」
(顔ごと吹き飛ぶだろうがっ!)
と言いたくなるが、さらに自分の身が危うくなる気がして、リカルドは「すいませんでした」と素直に謝った。
すると彼女は「ん」と頷いて、銃をしまいながら、
「ところでチビ、お前の名はなんというんだ?」
「……俺が先に訊きたかったんすけどね。リカルドっす」
「そうか。私はシオンという。お嬢様と呼べ」
「は?」
思わず聞き返した。だけど彼女、シオンは淡々と繰り返す。
「私のことはお嬢様と呼べ」
「そんな可愛らしくないっす」
即座にそう言って、リカルドは今一度銃を突きつけられるかと思ったが、彼女は「そうだな」と視線を動かした。
どこを見ているというわけでもない。むしろその動きがどこか悲しげに、憂いのあるもののようにさえ、リカルドには感じられた。
そのシオンは、はっきりとこう断言してくる。
「だがこんなボロいアパートに一人で住んでいる貴様に比べたら、私は段違いのお嬢様だ。この事実は変えようがない」
「……普通に“シオンさん”じゃダメなんすか?」
「男のようだろう」
(確かに……)
どこかでそう納得する。だが、
「けどあなたにピッタリの名前っすね」
「どういうことだ?」
さらに厳しい眼差しが飛んでくるが、その明快な反応にリカルドはまた苦笑し、
「じゃあ、姐さんにするっす」
「お嬢様にしろ」
「嫌っす」
それだけは、どうしてもリカルドに譲る気はなかった。
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