第一話 お嬢様には用心を

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「げっ……」  彼女がそれを羽織ると、リカルドは思わずそんな声をあげてしまう。  似合っていた。とてつもなく。  ストレートの真っ赤な髪に、獰猛な獣の如き同色の瞳が、黒にひときわ映えていた。 「けど暗殺者みたいっすね」 「なんだ? お前は頬にも口が欲しいというのか?」  リカルドが思わず漏らした感想に、彼女はちゃきっと銀の小銃を構える。 「……どこから取り出したんすか」 「女には秘密が多いものだ。さて、新たな口の大きさはどの程度が所望だ? お望みというのならば爆弾で開けてやってもいいが?」 (顔ごと吹き飛ぶだろうがっ!)  と言いたくなるが、さらに自分の身が危うくなる気がして、リカルドは「すいませんでした」と素直に謝った。  すると彼女は「ん」と頷いて、銃をしまいながら、 「ところでチビ、お前の名はなんというんだ?」 「……俺が先に訊きたかったんすけどね。リカルドっす」 「そうか。私はシオンという。お嬢様と呼べ」 「は?」  思わず聞き返した。だけど彼女、シオンは淡々と繰り返す。 「私のことはお嬢様と呼べ」 「そんな可愛らしくないっす」  即座にそう言って、リカルドは今一度銃を突きつけられるかと思ったが、彼女は「そうだな」と視線を動かした。  どこを見ているというわけでもない。むしろその動きがどこか悲しげに、憂いのあるもののようにさえ、リカルドには感じられた。  そのシオンは、はっきりとこう断言してくる。 「だがこんなボロいアパートに一人で住んでいる貴様に比べたら、私は段違いのお嬢様だ。この事実は変えようがない」 「……普通に“シオンさん”じゃダメなんすか?」 「男のようだろう」 (確かに……)  どこかでそう納得する。だが、 「けどあなたにピッタリの名前っすね」 「どういうことだ?」  さらに厳しい眼差しが飛んでくるが、その明快な反応にリカルドはまた苦笑し、 「じゃあ、姐さんにするっす」 「お嬢様にしろ」 「嫌っす」  それだけは、どうしてもリカルドに譲る気はなかった。
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