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突如、目の前に白鳥が舞い降りた。
ほの白く光を放ち、黒い瞳は鋭い。
「ついて参れ」
白鳥――が口を開くと同時に羽広げ飛び上がる。
男性にとって、最初の試練は石段だった。
「……ま、待て」
白鳥は制止の声が掛かる度、降り立つ。
律義ではあるが、眼差しは冷ややか。
「老体には厳しいか」
遠慮の無い言葉。
「うむ……労れ」
「断る」
両者共に曲者といったところか。
境内に足踏み入れると、森閑とした空気が身体を冷やすようで心地良い。
「気持ち良い所だな」
「水を」
「ん?おお済まぬ」
「こちらだ」
霊使に付いてゆくと、水呑み場に出た。
冷たい霊水を口にし、一息。
「案内ご苦労だったな。ワシは巫女に会いに来たのだが、取り次いでもらえまいか」
「この杜には巫女以外おらぬ」
「――ほう?では、そなたは何者だ」
「我は我」
「禅問答か」
苦笑いするが、霊使は表情を出さずに見詰めてくる。
「案内しよう」
「巫女の元へな」
返事の代わりに霊使は羽を広げた。
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