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日が傾きかける頃、男性は杜を出る事にした。
「見送りは要らぬ」
「するつもりも無い」
遠慮の無い巫女の言葉に、男性は笑顔を浮かべた。
「面白いな、そなたは」
「楽しませるつもりも無い」
巫女の答に、男性は声を上げて笑った。
心底楽しそうに。
「……早く帰るが良い。間もなく日が暮れる」
言外に鬼の襲来の意味を含ませ、巫女は帰参を促した。
(ふむ……確かに傲岸不遜だな)
男性は胸中で呟く。
だが、巫女の分かりにくい気遣いも見抜いた。
「巫女よ」
「何じゃ」
「そなた、この杜で一人では寂しくないか?」
「ない。慣れておる」
一蹴されたが、男性は続けた。
「連れ合いを作る気は」
「無い」
「だがのう、巫女よ」
「年のいった者は、皆同じ事しか言わぬ」
言葉の途中で一蹴する。
「不要」
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