一人で

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染み付いてしまった都会的精神。 ここはタクシーなんて通らなさそうだ。 道路は狭く、先ほど乗ってきたバス以外何も走ってきていない。 「歩くか」 地図を握りしめて立ち上がった。  バス停を抜け出し、田んぼを通り過ぎ、林道を歩く。林道は上り坂になっていて正直キツい。 久しぶりに聞いたセミと、ヒグラシと、鳥の声。小学校の時の山登りを思い出させる。 「……」 不意に消えたそれらの音。背後から軽トラックがやってきた。 「よう兄ちゃん。何やっているんだ」 軽トラックが僕のすぐ後ろで止まり、運転手が窓から顔を出した。 「そうか、新入りか。よろしくな」 人なつっこく笑顔で話す吉田さん。
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