Part1 過去と現在

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怒った親父は 俺にそう激怒した。 「……何で? お母さんは何で 帰ってこないの?」 「まだ、分からないのか!」 パンッ……。 「……っ」 一瞬、何が起こったか 分からなかった。 でも、右頬に感じる痛みで 自分の身に何が起こったか分かった。 「お父さん……」 右頬に感じる痛みは 親父によって叩かれて 出来た痛みだった。 「分かったか! もう、アイツは 帰ってこないんだ!」 「……」 ……コクリ。 改めて親父から 突き付けられた事実は 幼い俺にはキツすぎた。 でも、親父は そんな俺には気付かず 部屋へと帰った。 1人リビングに 取り残された俺の頭には あの言葉が何度もよぎった。 ……帰ってこない。 もう、会えないんだ。 そう思った途端、 叩かれて腫れた右頬に 一筋の涙が落ちた。 その涙と同時に 目に溜まっていた 涙は溢れだし 止まらなくなった。 そして、 そのまま深い眠りについた。 太陽の光で 目が覚めた。 目が覚めたと同時に 目の痛みを感じた。 昨日、泣いたせいだ。 悲しみは思い出せば 思い出すほど 溢れてくる。 本当は帰って くるんじゃないか そんな甘いことを 何度も考えていた。 でも、朝起きて いると信じている 人の姿はなかった。 その時に改めて 分かった。 本当にもう、帰ってこない。 そして、 再び涙が落ちた。 声を殺して泣いていた。 誰かにバレることを 恐れるかのように……。 それから、 月日が流れて おふくろが出ていってから 3年が経った。 ずっと、帰ってこないと 思っていたおふくろが 家に帰ってきた。 その時の俺は おふくろが戻ってきたと 思っていた。 でも、おふくろは 帰ってきたんじゃなかった。 おふくろに会った時に 俺はおふくろに言った。 「お母さん……」 「……」 「……おかえり」 あの時の俺がその言葉を どんな気持ちで 言ったのか今の俺には もう、分からない。 でも、きっと必死だった。 帰ってきたんだ。 やっぱり、帰ってきた。 お父さんは 嘘ついてただけだ……と。 だから、俺は言った。 「おかえり」って。 でも、おふくろは 俺がずっと待っていた 言葉を返してくれなかった。 辛い気持ちを ずっと我慢していた 幼い俺におふくろは言った。 「その呼び方 やめてくれる? もう、あなたとは 何の関係もないんだから」 「えっ……」
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