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あの時の俺は
泣きそうな気持ちで
一杯だった。
ずっと待っていて
やっと出会えた
おふくろに言われた言葉は
あまりにも残酷だった。
あの言葉をきっかけに
今の俺がいるんだ。
忘れたくても、
ふとした時や
何かをきっかけに思い出す。
それからの生活は
孤独な日々だった。
昔は家族で食べた晩飯も
あの頃の俺は
自分で買ってきた
コンビニ弁当を食べていた。
そんな毎日が続くと
自分で自分に嫌気がさした。
そして、最終的には
中学入学と同時に家を出た。
だから、まともに
学校にも行っていない。
高校なんか入学すら
していない。
そんな時に出会った。
……俺を救う光を。
孤独で一杯一杯だった俺に
何の迷いもなしに
光を与えた。
それをきっかけに
俺の生活は変わった。
晩は絶対に
女と過ごすようになった。
1人になるのは昼間だけだ。
昼間でさえも
1人の時間は少なかった。
昼間から、
誰かと一緒にいる。
誰かといることで
その間は昔を
忘れられるからだ。
あの時のおふくろの
言葉が今の俺にも
少なからず影響している。
捨てられたことだけが
悲しいんじゃない。
あの時のおふくろの
あの言葉が悲しかったんだ。
心のどこかで
信じて待ってた
おふくろの口から出たのは
自らの子供を
拒否する言葉だった。
そんなことを
考えていると
携帯のバイブが鳴った。
その音で我に戻る。
そして、何かを
思ったかのように
ポツリと呟いた。
「信じてたんだろうな……。
あの頃の俺は……」
そんなことを
ポツリと呟きながら、
昔のおふくろの顔が
一瞬浮かんだ。
でも、浮かんだ顔は
目も鼻も口も髪型すらない
のっぺらぼうだった。
「忘れたのかな……」
自分を産んだ母親の顔すら
俺には思い出せなかった。
思い出が少ないとか
一緒にいた時間のせいとか
そんな綺麗事が
原因ではない。
ただ、思い出そうとしないし
大切な人とも思わない。
それが原因なんだ。
本当に大切で
必要不可欠だったら、
嫌でも何か思い出す。
でも、俺の頭に浮かんだのは
何も持っていない人。
思い出せないんじゃない。
思い出さないだけなんだ。
「……別に、いっか。
今の俺に足りねぇもんなんか
ないんだしなぁ……」
口ではそう言っても、
今の俺と昔の俺は
何かひとつ足りない物が
あったんだ。
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