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遣唐使船が日本海域に入ってすぐの晩、袁晋卿は悪夢にうなされていた。
突然、誰かに叩き起こされたように目が覚める。
背中から浮き出て、流れる汗は、まるで虫が這っているように感じて気持ちが悪い。
体を乾かすため、風に当たろうと考えた。
「しかし、なんだったんだ、あの夢は」
夢の内容は、自分が海水の中でもがいているものだった。さらに、海の底から、見たこともないような化け物に、体を、海の闇に引きずり込まれそうになった。
「でも、助かったんだよな」
そのあと、何者かに、助けられたのだ。
「でも、あれはいったい、誰だろう」
助けてくれた人物が、思い出せなかった。そして、化け物の姿も。
夜風は、ものすごい早さで汗と体温を奪い、寒さを感じさせた。体を抱くようにして、建物の中へ入ろうとすると、かすかに、果実のような甘い香りがした。
袁晋卿の体は、まるで蝶が花の蜜に引き寄せられるように、匂いをたどった。
船首の先で、女童が背を向けて立っているのが目に入り、匂いはその者からだと考えた。
女童は、長い髪の毛を、川が流れているようになびかせていた。月光のせいか、一瞬、金色に輝いて見えた。
袁晋卿は魂を奪われたように見つめていた。
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