遣唐使船 1―2

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 女童は、天を仰いでいた。 その頭に、小さな何かを乗せていた。影になっていて良く見えなかったが、それは、人間の頭蓋に見えた。  袁晋卿は、良く見ようと、一歩前に出た。 すると、相手が気配を察知したかのように、くるりと、顔を向けた。 「――ぁっ」  無意識に、体を建物の死角に潜ませた。  何を隠れる必要がある。そう自分に言い聞かせ、次に覗くと、目を疑った。 「あの娘、どこへいったのだ」 駆けるようにして、女童のいた場所に立つ。海へ落ちたか、と思ったが、鏡のような水面に映るのは、自分の顔だけだ。女童はどこにもいない。 「それは、私のことか」  不意に背後から声をかけられ、袁晋卿は飛び上がった。 「わ、わ、わっ」  足がふらついて、海面に倒れそうになる。それよりも素早く、袁晋卿は手を取られ、安全なところまで離れた。 「あ、ありがとう」 心がどきどきしたまま礼を言った。その時に、袁晋卿は女の顔を見て、感嘆の声を上げた。  童とは思えないほど美しかった。美しさに年齢は関係の無いものだと、袁晋卿は初めて知った。 目の前に立っている女は、それほど輝いて、愛らしい姿だった。  うつむき加減の顔は、まさに陶器を思わせるひんやりと取り澄ました表情。濁りのない澄んだ水のような瞳は、妖しく、なぜかぞっとする。 地にまでつきそうな漆黒の髪は、人の心を吸い込みそうであった。  袁晋卿は、言葉を忘れて、じっと見つめた。 「あまり見るな」 女が、ぷいっと横を向いた。「恥ずかしいではないか」 「す、すいませんっ」 我に返った袁晋卿は目線をそらした。自分の顔がやや上気していることが嫌でもわかる。 「名は」袁晋卿が訊ねた。  女が、桃色の小さな唇を開けた瞬間、 「何をしているんだ」 突然聞こえた、初老の声。
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