遣唐使船 1―2

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「真備、さま」  後ろにいる女童を隠すようにして、真備と向き合う。 こんな場所で、しかも夜に、女と一緒のところを見つかれば変な誤解を生むに違いない、袁晋卿は焦った。 「どうしたんだ」 「なんでもないですよ」 「今、何を隠したのだ」  真備の言葉に、袁晋卿の心臓は早鐘を打った。 「何を言っているんです」 「だって、後ろ、毛が見えているぞ」  袁晋卿は、思わず、首をひねって自分の背を見た。女の髪の毛が隠しきれていなかった。その瞬間に、真備は、背後に回り込んだ。  真備が、女と袁晋卿の顔を交互に見た。「はっはーん。袁、おまえもすみにおけないねえ」 「誤解をしないでください。僕はただ――」 「名はなんと言います」 真備が、女と向き合った。 「私は吉備真備。日本の貴族です」 「名は、若藻(ワカモ)。玄宗皇帝の家臣、司馬元修の娘である」 女童とは思えない強気な態度で答えた。さきほど見せた恥ずかしがった顔とは、また別の顔であった。 「では、この船が何かご存じかな。わたしが思うところ、若藻は許可なしで乗り込んだ、と推測されるよ」 「日本へ向かう遣唐使船、だと聞いているが」 「なら、日本へ何用でしょう」 「見物、とでも言っておこう」  若藻が言うと、二人の間に沈黙ができた。袁晋卿はどうしたら良いのかわからず、二人の様子を見ていた。真備は何か考えていた。 「ふう」 真備が頭をかきながら言った。 「ま、こんな尋問みたいなことしても仕方ないか。どうせもう、日本の海域、玄界灘に入ったことだし」  女が海に投げ出されるのではないかと、心配をしていた袁晋卿はほっとした。 「しかし、あなたは、密航をしている身。日本へ着くまで目立たないようしてもらいたい」  真備が告げると、若藻は女は頭を下げて、礼を言った。 「では、若藻の監視役として、あとは頼んだよ」 と袁晋卿の肩を叩いた。  ええっ、なんで僕がっ、と初めは、拒否しようかと思ったが、良く考えると、この女性と少しでもそばにいられるのだと思って、 「わかりました」 袁晋卿は了承した。  それは、小さな下心であった。 「よろしく頼む」 「こちらこそ」  二人は手を握り合った。
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