遣唐使船 1―3

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 若藻は、色んな話を語った。それが、袁晋卿にとって面白く思った。  殷と周との間で起こった仙人、道士、妖怪、人間の戦争の話。  天竺の皇太子と、その婦人が起こした、民に与えた残虐な行為の話。  全く笑わない女のため、何度も自分の兵に、敵が攻めてきたと嘘の狼煙を立て、騙され集まった兵を見てやっと笑顔を作った女、しかし、本当の敵が攻めてきた時、誰一人、兵は動かないまま、静かに殺された周の皇帝の話。  どれも狐の妖怪が関係していた。狐は、王の妃を殺して入れ替わり、生活している。 初めは、ひどい話だと思っていた袁晋卿だが、次第に、狐の妖怪が本当は孤独を恐れ、愛情に溺れているのではないか、と感じ始めた。  ある晩。袁晋卿は、いつものように握り飯を若藻に渡し、物語の始まりを待った。 「そんなに、私の話は面白いか」 「うん。若藻は博識で、語り方も上手い。まるで、話の中で生きていたように思えるよ」  袁晋卿の言葉に、若藻は小さく笑った。 「なら、私は人間ではない、ということになるな」 「数百年以上も生きている大妖怪だったりして」 「なら、話すまえに訊いておこうと思う」 若藻は、急に真面目な顔をして、袁晋卿を見つめた。 「私がその妖怪だったら……どうする」
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