遣唐使船 1―3

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 袁晋卿はすぐに答えた。 「変わらないよ。どんな妖怪でも、若藻は若藻だよ」  若藻が、くすくすと笑って、とても嬉しそうな顔を見せる。  袁晋卿は、若藻の笑っている顔を横から見つめるのが好きだった。だが、それができるのは、日本へ着くまでの間だ。袁晋卿は、若藻と別れることを考え、胸がつぶれそうになった。  それは、唐から、大切な人たちと離れた時に感じた胸の苦しみと同じだった。  袁晋卿はこの時、心の中で、若藻と少しでも多くの時間を過ごせるよう祈った。 「では、話してやろう」  袁晋卿の気持ちを知らない若藻が語り出した。 「今から数年まえ、ある小さな村に、六人の漁師がいた。この者たちは磯のあたりで漁をしていた。村では沖へでるのを禁じられていた。沖へ出ると恐ろしい妖怪が出るからだそうだ。  ある日、六人の内、一人が沖へ行こうと言い出した。沖へでれば大物が手に入ると思ったからだ。 その日は天気が良く、風も波も穏やかだった。初めは反対した者も、しぶしぶ同行した。 沖での漁は成功だった。
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