遣唐使船 1―3

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 大漁という快感を覚えた漁師たちは、時間を忘れた。 気がつけばあたりは暗くなり、漁は中止された。 帰ろうとしてあることに気づいた。初めて沖へ出た漁師たちは、帰りの方角がわからなかった。そして、最悪の事態が起こった。あれほど良かった天気は崩れ――」  若藻がそこまで言うと、空から、獣の咆哮のように雷鳴が轟いた。  袁晋卿は、座ったままの状態で飛び上がった。若藻は袁晋卿の様子を気にせず、言葉を続けた。 「雷が落ちた」  天の怒りと思わせる光りが闇を裂いた。落雷だ。 「そして、風は波を厳しくさせ、舟を突き倒そうとした」  ぎいぃぃっ、船が苦しむように軋んだ音をたてて、激しく揺れる。  いつの間にか、遣唐使や、他の乗組員が、次々に混乱した姿を現し、叫び声を上げた。  だが、袁晋卿は気にはならなかった。若藻の言葉に集中していた。こんな状態になりながらも、続きが気になった。  このあと、漁師たちはどうなったのか。 「六人の漁師たちは、風に飛ばされ、海の彼方へ姿を消した」  その時だった。突風が袁晋卿を狙ったように、軽々と体を吹き飛ばした。まるで巨大な手で、わしづかみにされて投げ飛ばされたようだ。 「うわああああああっ」 袁晋卿は海中へ深く沈んだ。
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