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 男は闇をさまよっていた。 見開いた二つの瞳には、黒という色しか映らず、自分の体すら見えなかった。  声を出して、人を呼んでみるが返事はない。  雪が降り積もるように、心を壊すような恐怖が心の隅にたまり始めていた。  なぜ、このような所にいるか、男にはわからない。そして、自分の名前すら、頭に浮かんでこなかった。  まるで、地上から姿を消し、その存在が海底へ沈んでいるようであった。  もう、ずっとこのままなのだろうか、と、十回目の不安が横切った。  その時であった。  小さな光りが目に入った。距離が離れているせいか、親指くらいの小さな光が宙に浮いている。  男は無心になって、そばまで駆けた。近づいてみると、それは蝋燭の火だった。  男は、蝋燭の後ろに一人の小さな人間に気付いた。
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