二章・島 1―1

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 勢いよく海面に叩きつけられ、袁晋卿は痛みを感じた。 さらに、海水の冷たさが骨にまで伝わった。  予期せぬ事態に混乱した体は、満足に動かすことができない。ぎこちなく首を動かすことが精一杯だった。  船の真下は、暗く、この世ではないようだった。  その時、ぬるり、と足首から嫌な感触が脳へ伝わった。まるで、大量の藻がからみついた感じだ。袁晋卿は、自分の足へ顔を向けて、息を呑んだ。  それは、背を丸め、小刻みに痙攣を起こしていた。人の形をしているが、決して、人ではなかった。何も身につけていない。肌は死んだ肉の色をしていた。片腕、片足しかなく、頭は肉の塊だった。その化け物が、袁晋卿の足を掴んでいるのだ。  袁晋卿は、恐怖のあまり目を離せなかった。  ただ、このあと自分はどうなってしまうのか、それだけを考えていた。  化け物が、袁晋卿の体を這うように動いた。一本しかない腕が、袁晋卿の胸を掴んだ。爪がすべて剥がれているにもかかわらず、ひっかくように指が食い込んだ。  それは一瞬のことで、化け物は、体をうねらせながら海底の闇へ消えた。  助かった。と気を緩めたとたんに、口から空気が、体から力が抜けていった。  消え失せる視界の中で、袁晋卿は、腕を引っ張られて浮上していくのを感じた。
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