二章・島 1―1

3/6
前へ
/111ページ
次へ
 海面から頭を突き出し、意識が回復するまで、時間はそんなにかからなかった。  激しく咽びながら、袁晋卿は尋問するように、 「どうして、僕を、助けた。死ぬかもしれなかったのに」 隣にいる男に訊いた。  二人は背を向け合っていた。 「なんとか言えよ。普照」 「さぁな」無愛想な声が聞こえた。「おれにも良くわからん」  袁晋卿は黙った。何と言い返せばいいのかわからなかった。 巫山戯るなっ、と言うべきなのか、それとも、感謝するべきなのか悩んだ。 「おれは、もう人の死ぬところは見たくないだけだ」  その言葉がはっきりと耳に入ると、普照は袁晋卿の前に移動した。 そして、右手を差し出した。 「おれの数珠だ。さっきのような奴が現れても大丈夫なように持ってろ」  ひょいっと受け取って、 「自分の分はあるのか」 「ない」 「ないって、じゃあ、今度、現れたらどうするんだよ」 「おれは、おまえのような間抜けじゃない」 「なんだとおっ」袁晋卿が憤って声を上げた。 「よぅ、大丈夫だったか」  振り返ると、声の主は真備だった。  袁晋卿は、自分のすぐ近くに若藻もいることに気づいて、名を呼んだ。すると、迷子になっていた童が、母を見つけた時のように、若藻が近づいてきた。  集まったのは、この者たちだけだった。周りを見て、袁晋卿は何か変だと思った。
/111ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加