二章・島 1―1

4/6
前へ
/111ページ
次へ
 それは、目がおかしくなったのではないか、と思うほど視界は白く、周りが霞んで見えた。 だが、それは霧だとすぐにわかった。目に入るのは互いの顔と海面だけで、月の姿が見えないほどの、濃い霧だ。  下手をすれば、はぐれてしまう。袁晋卿は思った。 「どうやら、別世界に来たようだな」  若藻の言葉に袁晋卿は、はっとした。 「船は……遣唐使船は、どこに行ったんでしょうか」 「どうして、何もないんだ」  考えれば、考えるほど、何が起きたのかわからなかった。あの嵐と遣唐使船はどこに消えたのか。  袁晋卿の頭は、まさに五里霧中であった。 「とにかく、船とは、ただはぐれただけかもしれない。捜そう」  真備の言葉に、異議はなかった。進むべき方向を決めたが、この進路が正しいのか正しくないのかは、誰も知らなかった。  先頭に真備、次に若藻、その後ろで袁晋卿は泳ぎ進んだ。  時折、白いもやが、人の顔に見え、袁晋卿は恐ろしく思った。さらに、波の音が地獄からの響きのように聞こえ、耳を塞ぎたくなる。 「なぁ、普照」袁晋卿は、後ろを向いて、小さな声で話しかけた。「あの化け物、何だと思う」 「……さあな」 無愛想に答えたのではなく、本当にわからないようだ。 「二人に、言っておいた方がいいのかな」 ちらっと、真備と若藻に目を向ける。 「それは、止めておけ。無意味に二人を不安にさせない方がいい」  普照の言葉に袁晋卿は納得した。
/111ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加