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それは、目がおかしくなったのではないか、と思うほど視界は白く、周りが霞んで見えた。
だが、それは霧だとすぐにわかった。目に入るのは互いの顔と海面だけで、月の姿が見えないほどの、濃い霧だ。
下手をすれば、はぐれてしまう。袁晋卿は思った。
「どうやら、別世界に来たようだな」
若藻の言葉に袁晋卿は、はっとした。
「船は……遣唐使船は、どこに行ったんでしょうか」
「どうして、何もないんだ」
考えれば、考えるほど、何が起きたのかわからなかった。あの嵐と遣唐使船はどこに消えたのか。
袁晋卿の頭は、まさに五里霧中であった。
「とにかく、船とは、ただはぐれただけかもしれない。捜そう」
真備の言葉に、異議はなかった。進むべき方向を決めたが、この進路が正しいのか正しくないのかは、誰も知らなかった。
先頭に真備、次に若藻、その後ろで袁晋卿は泳ぎ進んだ。
時折、白いもやが、人の顔に見え、袁晋卿は恐ろしく思った。さらに、波の音が地獄からの響きのように聞こえ、耳を塞ぎたくなる。
「なぁ、普照」袁晋卿は、後ろを向いて、小さな声で話しかけた。「あの化け物、何だと思う」
「……さあな」
無愛想に答えたのではなく、本当にわからないようだ。
「二人に、言っておいた方がいいのかな」
ちらっと、真備と若藻に目を向ける。
「それは、止めておけ。無意味に二人を不安にさせない方がいい」
普照の言葉に袁晋卿は納得した。
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