二章・島 1―1

6/6
前へ
/111ページ
次へ
 月が照らすその光りを頼りに良く見ると、まるで廃屋であった。 何か、物の怪などの類が好きこのみそうな場所であると、誰もが、不吉な予感を抱いた。  だが、体力は限界に近く、吸い込まれるように歩み寄る。 「……っ」袁晋卿が声にならない悲鳴を上げた。「ひ、人魂」 「違う。あれは灯籠だ」  若藻の言った通り、門を挟むように灯籠が二つ備えられていた。 その中で、火が踊っていた。袁晋卿は、人がいるということを、思い出した。  真備の手が、扉に触れたのか触れていないのか、微妙なところで、外側に勢いよく開いた。そして、何かが飛び出した。  銀色の光りが、袁晋卿を襲う。寸前で避け、尻餅を付いた。  妖しい輝きを放っているのは、刀の刃だった。何者かが、刀で襲ってきたのだ。  危険を察知した真備が節刀を抜いた。  炎の灯りが、逆光となっていて、顔は確認しずらい。  だが、男であるのは一目瞭然だった。恰幅の良い肉体を持っている。  目をこらして、袁晋卿たちは男の顔を睨んだ。  顎髭は雑に伸びている。髪型はまるで山賊のように短く、上へ尖っていた。 太い眉の下にある瞳は、真備と同じような野心の炎が燃えていた。
/111ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加