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一同は、延々と続く道の先をしばらく眺めて、重い足を前へと出した。
「それにしても、あの火は、どういう仕掛けなんだろうな」
古麻呂が、沈黙を嫌うように言葉を出した。しかし、誰も大したことは言えず、再び沈黙が訪れようとした。
「そういえば、和上はどうして、遣唐使船へ」
袁晋卿が沈黙を与えないように、鑑真に訊ねた。鑑真は懐かしそうに顔を上へ向けた。
「もう、十年以上も昔になるかね。あっしのところに、日本から二人の僧が訪ねて来た。その者たちは、日本の荒れた仏教界を正してほしいと頼んだ」
日本から来た二人の僧。袁晋卿の頭の中で、何かが引っかかった。
「あっしは、日本へ行くことにした。いやぁ、なかなか難儀だったよ。皇帝は唐を出ることを許してはくれない。弟子には、行かないでくれ、と止められる。日本への船を手に入れても、嵐に遭って知らない島に流され、視力を失う。そして、日本からきた僧の一人を死なせてしまった――」
袁晋卿は気になった。その二人の僧が誰なのか。
「あの、その僧は」
「――あいつは、きっと唐の人間を憎んでいるはずだよ」
話すことに夢中である鑑真の耳には、袁晋卿の言葉は届かなかった。
「止むを得ず、その僧を休ませるため、知人の寺に預けて、一度別れた。そして今から一年前、その僧は遣唐使が渡航して来たことを知って、ここにいる明らかに野心丸出しの真備と古麻呂に、あっしを乗せるよう頼んだそうだ」
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