島 1―2

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「おれたちゃ、了承したんだが、皇帝がね、遣唐使の頼みでも許してくれなかったんだよな」 「で、あっしらは最終的に密航する形になったんだけど、これまた寸前で役人に見つかっちまったんだよね」 「それにしても、良く乗れましたね」 真備が横目で鑑真を見た。 「まさか、役人を殴り倒して、乗り込んだんじゃないでしょうね」 「へっへ、そうしようと思ったところでね」 「おれさまが、こっそりと乗せたんだ」 威張るようにして、古麻呂が前に出た。 「これで、上手くいけば出世が出来る」 「あの、その僧とは普照のことですか」 「ん、ああ、そうだよ。どうして、おまえさん、普照のことを知っているんだい」 「普照はね、わたしが乗せたんですよ。そしてこの者と話し相手にさせていたのです」  鑑真と真備の言葉に、袁晋卿はきょとんとした。 「ちょっと待ってください。普照は、僕らと一緒にいるじゃ……あれ、いない」  袁晋卿は、後ろへ顔を向けた。しかし、普照はいない。右にも左にも、普照の姿はなかった。 「普照は初めからいなかっただろ」 真備が、きょろきょろと顔を回している袁晋卿の肩に手を載せた。 「嵐にあって、海へ投げ出されたのは、わたしと、若藻と、おまえだけではないか」  袁晋卿は、顔を下へ向けて、倒れそうになるのを必死で堪えた。普照がいたことを、あっさりと否定されて、悔しくて涙が滲んできた。 若藻にも訊こうとしたが、今の顔を見られるわけにはいかず、何も訊かなかった。
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