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しばらく歩いて、道の先に扉が見えた。
「やっと屋敷の人間に会えるかもな」
嬉しそうに古麻呂が、扉を開ける。
瞳に映ったのは、何もない部屋だった。火の点いた燭台が四つ隅に備えられている。開けた扉の反対側に、別の扉が二つ並んでいる。それだけだった。
「何にもねぇな」
ひどくつまらなそうに古麻呂が言って、足を踏み入れた。他の者も後に続く。
「それよりも、どちらの扉を進むべきか、だな」
冷静に若藻が言葉を出すと、宙から、あの紙切れが、若藻の手元へ落ちた。
「おいおい、その紙は、まさか」
古麻呂は覗き込もうと若藻に身を預けようとした。そんな古麻呂を、避けるように身を離した若藻は、静かな声で、
「右の道を進み、奥の部屋で体の汚れを洗い流してください」
言葉の終わりと同時に、右の扉が、ゆっくりと生きているように開いた。軋みの音をたてることなく、静かに。
一同は、開かれた扉の奥を覗いた。今までと同じ廊下が一本だけ延びている。
「左側の方は、どうなっているのかな」疑問に思った真備が、左側の扉へ歩み寄った。
しかし、開けようとはせず、真備はただ立っているだけだった。
「おい、どうしたんだ」
「紙がはさまっていた。ええと……ここから先を通るには、まず、体の汚れを落としてからにしてください、と書いてある」
「どうやら、かなり綺麗好きみたいだな、ここの主は」
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