島 1―2

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 真備は、一度、自分の体を見回した。先ほどまで山道をさまよっていた着物や体は、かなり汚れていた。 「確かに、この状態のまま動き回るのは、失礼のようだな」 肩をすくめて、右側の廊下を通ろうとする。 「素直に従うとしよう」  皆が頷き、足を動かそうとした。ただ一人、袁晋卿を除いて。 「……やっぱり、僕は信じられない。普照がいなかっただなんて」 下を向いていた頭を正面へ向けた。決意を示した表情である。 「僕、探してきますっ」  それだけを言うと、来た道を走って戻った。後ろで、自分を呼び止める声が耳に入ったが、聞こえないふりをした。  きっと、霧が濃くて、真備や若藻は気づかなかっただけだ。普照とはぐれてしまっただけだ。外に出て、目を凝らし、大声を出しながら捜せばきっと普照は見つかる。  普照が渡してくれた数珠を握り締めながら、袁晋卿は心の中で、そう呟いていた。  走りながら、いろいろなことを考えた。  初めからこの数珠を、真備たちに見せていれば良かったのではないのか。どうして自分は、こんなに必死になって普照のことを思っているのか。この屋敷の主は、どうして姿を見せないのか。海で襲ってきた化け物は何だったのか。どうして遣唐使船が消えたのか。 答えはわからない。  それにしても、長い廊下だ。喉の奥をひゅうひゅうと鳴らしながら袁晋卿は思った。 「あ、あれ、なんだこれっ」  立ち止まった袁晋卿の前に現れたのは、二手に分かれた道。  一度、目を擦って、良ぉく見る。が、やはり道は、綺麗に右と左に別れている。袁晋卿は頭をひねらした。 道を間違えたわけではない。一本道だったはずだ。  袁晋卿は、首を伸ばして、左右に別れた道を覗くと、ぞっとした。  両方の道には、灯りがなく、死の国へと繋がっているように暗い。 外で、びゅううぅぅ、と吹く風の音が、幽霊や妖怪などの呻き声のように聞こえ、袁晋卿は、化け物の姿を浮かべて、恐怖心という縄に体を縛られた。先へ進むことも、戻ることも、このままでは、できない。  ひた……、ひた……、 足音と思えるものが耳に響いた。 暗闇からは何も見えない。だが、確実に音は近づいている。体を動かせない袁晋卿は、唾を呑むことしかできなかった。  ひたっ――と音は急に止んだ。瞬間、袁晋卿は、背後から何者かに、右肩を強く掴まれた。
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