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その様子を見た若藻は、「では、良いというまで、目を閉じておるのだ」と体を向けて、頼むように言った。
「へっ」
そのようなことでいいのか、と呆気にとられた袁晋卿だったが、深く考えず目を閉じた。
「目を開ければ、この世で、生を受けたことを後悔するほど、不幸な目に遭うぞ」
目を閉じた袁晋卿に力強く言った。
「開ければ、末代まで呪ってやるぞ」
「う、うん」と、口で言った袁晋卿だったが、これほどまでに言われると、気になってしまう。
ほんの、ほんの少しだけ、瞼を開けた。
「もし、覗くようなことをすれば、袁と私の仲は、終わりだな」
その言葉に、袁晋卿は思わず、瞼を下へ戻した。
「見てないよ。……灯りを頼むよ」
沈黙。そして、若藻の息を吐く音が聞こえた。
何かが始まったのだ、と袁晋卿は察した。もう目を開けようという考えはなかったものの、若藻が、いったい何をどうしているのか、その疑問が気が気でなく、体がうずうずしていた。
見てみたいが、目を開けるわけにはいかない。若藻との仲を崩すのが嫌であった。心の中にかなり葛藤があった。
「終わったぞ」
若藻の言葉を聞いて、袁晋卿はいつの間にか、ぎゅっと力強く瞼を閉じていることに気づいた。長く続いた葛藤がやっと終わって、瞼を開けると、まぶしさに目を痛めた。
ゆっくりと灯りに目が慣れてくると、大して驚くほどの灯りでないことがわかった。だが、暗闇に対する心配は去った。
二人は並んで、頼りない火が照らす廊下を歩いた。袁晋卿は、先を知らない道に頭を悩ませていたが、若藻は、やはり気にしていないようだった。
「若藻は、良くこんな、先のわからない道を、平気で通れるね」
「普照を捜すには、どんな道だろうと通るしかなかろう」
「……うん、そうだね」
納得したのか、してないのか、袁晋卿はとりあえず頷いて、この奇妙な道について訊かないようにした。
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