島 1―3

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「それにしても、僕たちって、あの六人の漁師に似ているね」  袁晋卿の言葉に若藻は頷く。 「そうだな。確かに、船は嵐に遭って海の真ん中に放り込まれた。それから後のことも、良く似ている」 「え、後のこと」 袁晋卿は、言っている意味が理解できず、訝った表情で若藻を見つめた。 「あの話には続きがあるのだよ」 「そうなの」  若藻は、漁師がどうなったのかを話した。 「風に飛ばされ、海に呑まれた漁師たちが次に目覚めた場所は、暗く、何もない部屋だった。喜びの声を上げる者は誰一人いない。むしろ逆に、不気味に感じた」  語りながら前へ進む若藻を、袁晋卿は見つめていた。燭台は一定の間隔を空けて置いてあるので、瞳に映るその顔は、暗くなったり明るくなったりしていた。 「漁師たちが、まず知りたかったことは、自分たちのいる場所だった。もしかすると、この世ではない場所に来たのかもしれない、と思ったからだ」 「どうだったの」 袁晋卿が、話の中に入り込む。 「もちろん、死後の世界などではなかった。だが、喜ぶには、まだ早かった。一人欠けていたのだ」  袁晋卿は、普照の顔を思い浮かべた。 「漁師たちは、部屋を出て、人を探そうと思った。中は思った以上に暗く、広く感じた。いったいどれほどの建物なのだろうか、と誰もが思った時、また一人、闇にさらわれたかのように音もなく消えていた」  また風が吹いた。すすり泣いているような不快な音をたてている。
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