島 1―3

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 先ほどよりも、はっきりとした声が聞こえた。 「だ、誰だっ。どこにいる」  大声を張り上げたが、廊下に響いただけだった。  興奮と怒り、不安と恐怖。それらの感情が、薬を調合するように一つになっている。  しかし、それは一瞬で、恐怖だけに染まっていった。  奥の方から灯りが一つずつ、迫るように消えだした。灯りの消えた周辺が暗闇に沈む。  闇との距離がじりじりと縮まり始めた。  気づいたときには、袁晋卿は逃げ出していた。獲物を追いかけるように燭台の火は次々と消える。暗闇は、廊下に響く足音さえ呑み込んだ。 闇と交われば、自分も消える、そう考えた。
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