島 1―4

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 それから長い距離を走った。 いったい、自分は今、どこに向かって走っているのだろうか、いつまで走り続けるのだろうか。  袁晋卿の、頭と体力は限界に達そうとしていた。速度もだんだんと落ちている。  薄ぼんやりと見えた扉に、袁晋卿は誰かがいることを願いながら、無我夢中で手を伸ばした。  ばたんっ、倒れ込むようにして部屋に入った袁晋卿は、室内を見渡して、安堵の息を漏らした。  そこにいたのは、食事をとっている真備、古麻呂、鑑真の三人だった。  やっと人のいる場所にたどり着けた、と喜びを短い間で感じて、袁晋卿は急いで扉を閉じた。 次に目を向けたのは、部屋に備えられている燭台だ。四つある燭台は席の真後ろに立てられていた。 その火は、ちろちろと蛇の舌のように細いが、消えることなく燃え続けている。助かったのだ。 「若藻には、会えたか」 飢えた餓鬼のように食べ物を貪っている、真備が顔を向けずに訊いた。 「会えました、けど大変なんです。今すぐここから出ましょう」 袁晋卿が大声を出した。 「みんな、消えてしまいます。呑気に食事している場合じゃないですよ」  袁晋卿の声が届いていないように、三人は慌てることなく食事を続けていた。 「少しは落ち着け。開いている席に座って、ゆっくり訳を話せないのか」  確かに、真備の言うとおりかもしれない、と袁晋卿は冷静になろうと努力した。ゆっくりと部屋の内部を見渡しながら三人の近くへ行く。  中は広々としていた。部屋の真ん中に据えられた座卓には、誰が用意したのか、色とりどりに豪華な五人分の食事が盛りつけられている。  気になったのは、この食間から、まだ奥へと続く扉。  適当な場所に座って、袁晋卿は目の前に置かれてある、水の入った湯飲みに手を伸ばした。口に当てて、湯飲みを傾ける。 中の水が口の中へ入ろうとした時、袁晋卿は、とっさに飲むのを止めた。 飲んではいけない、本能がそう言っていた。 「で、何があったんだい。詳しく聞かせてくれよ」 真っ正面で座っている、鑑真が訊いた。 「実はですね――」 袁晋卿は、自分が見たことを説明した。
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