島 1―4

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 なるべく冷静になったつもりであったが、最後の方は自分でも何を言っているのかわからなくなっていた。 話している間、三人の汚い咀嚼音は止まなかった。 「なるほど。ようするに、はぐれただけだろ」  乱暴に突き放すような言い方をする古麻呂に、袁晋卿は愕然とした。あれは、あの若藻の消え方は、ただはぐれたとは違う。 「ま、心配する気持ちはわかる。しばらくの間、様子を見て、若藻が戻ってきそうにないなら探しに行くとしよう」 とても面倒くさそうに、真備が考えた。 「それでいいか」  本当は、今すぐ、みんなに捜して欲しかったのだが、袁晋卿は静かに、はい、と答えた。 もう、何を言っても動いてはくれないだろう、と理解した。 「ようし、おまえも、どんどん食え。うまいぞう」 古麻呂は厄介者がやっと静かになった喜びを表すように、急に上機嫌になった。  膳の中にあるのは、野菜に果物、そして米。他に奇妙なものが目に入った。それは椀の中で、汁に浸されていた。 白く、人間の指くらいの太さで長い。まるで生き物のようで、袁晋卿は不気味に思えた。 「その白く細いのは、麺ってやつだ」 袁晋卿の心を読んだように真備が説明した。 「上流階級の貴族しか食べることができないほどの贅沢品だから、良く味わって食うといい」  真備たちは気に入っているようだったが、袁晋卿はそうではなかった。  妙に生々しい。固まった白い蜷局は蛇のようだ。椀を動かすと、微かに蠢いて見える。臭いは、汁で消されているのか、良くわからない。袁晋卿は、とても食べる気にはなれなかった。  しかし、真備たちは、笑顔で「うん。うまい」とどんどん吸うように食べている。 「どうした。食べないならもらっちまうぜ」  古麻呂から不思議そうに訊かれて、袁晋卿は、箸でつまみ上げてみた。
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