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暗いところを通り、気味が悪いことばかりを体験して、袁晋卿は悪い方向ばかり考えた。精神が、削り取られていくのが、嫌でもわかる。
このままではいけない。袁晋卿は心の中で叫んだ。
「もし、普照が、今のぼくを見れば何て言うだろう」
頭の中に、普照が浮かび上がった。両腕を組んで、
「ふん。情けないやつだな。ま、仕方ないな。唐の学生だからな」
と軽蔑の眼差しで袁晋卿を見下ろしていた。
「な、なんだとっ」
勢い良く立ち、自分が生んだ幻を振り払った。「普照……こんな時にひどいこと言う奴だな」
「袁、失望したぞ」
今度は、背後から女の声がした。
「簡単に諦めてしまう人間だったのか」
振り返ると、若藻が心底呆れた表情で袁晋卿を見ている。
ちがう……っ。
「何がちがう」
若藻が袁晋卿に訊ねた。
「袁晋卿は、簡単に人を見捨てるのだろう」
違う……っ。
「何が違う」
普照が袁晋卿に訊ねた。
「袁晋卿は、闇を恐れ、一人では何もできないのだろう」
「違うっ」
袁晋卿は叫んだ。
「僕は、簡単には、大切な人を見捨てない。どんな闇にでも恐れないんだ」
体の芯が熱くなり、部屋を飛び出した。
「待っていろよ。絶対、見つけ出してやる」
きっと若藻は屋敷のどこかにいる。普照は島のどこかにいる。絶対に。確信した袁晋卿は、手を強く握り締めていた。
まず、袁晋卿が向かおうとした場所は、五色の戸の向かい側にある部屋だ。
五色の戸とは違い、塗色されていない木の戸だ。その普通さが、袁晋卿にとって怪しく見えた。もしかすると、何かが隠されているに違いない。
手を伸ばして、開けようとした瞬間。
「――っ」
袁晋卿は、かすかな視線と気配を感じて、周りを見た。
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