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「どうしたの。若藻」
袁晋卿は混乱した。心臓がおどっていて、体が熱い。
「若藻、離れてくれないかな」
「…………」
「…………」
若藻は何も言わない。潤んだ瞳、濡れた唇を、目の当たりにして、袁晋卿は理性を失いかけた。
そっと、若藻の顔に唇を近づける。
「いいのかい、当たっちゃうよ」
「…………」
若藻は依然として沈黙であった。
袁晋卿も、これ以上何も言おうとはせず、目を細めて、唇を重ねようとした。
「やっと見つけたぞ」
後ろから声をかけられ、これ以上にない悲鳴を張り上げ、袁晋卿は気絶しそうになった。
首をぎこちなく後ろへ向けると、袁晋卿の悲鳴で、驚いた顔をした若藻がいた。
「ええぇ、若藻っ」
目を丸くした袁晋卿は、慌てて、自分が何を抱いているのかを確かめた。
手と手の間には何もなかった。
風が吹いた。ひゅうぅ、という音が、袁晋卿を笑っているようだった。
若藻の視線に気づいて、なんとか平静を装ったまま、
「い、いやあ、若藻、無事で良かったよ。いや本当に」
若藻は、ふぅん、とだけ言った。
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