島 1―4

8/8
前へ
/111ページ
次へ
「どうしたの。若藻」 袁晋卿は混乱した。心臓がおどっていて、体が熱い。 「若藻、離れてくれないかな」 「…………」 「…………」  若藻は何も言わない。潤んだ瞳、濡れた唇を、目の当たりにして、袁晋卿は理性を失いかけた。 そっと、若藻の顔に唇を近づける。 「いいのかい、当たっちゃうよ」 「…………」 若藻は依然として沈黙であった。  袁晋卿も、これ以上何も言おうとはせず、目を細めて、唇を重ねようとした。 「やっと見つけたぞ」  後ろから声をかけられ、これ以上にない悲鳴を張り上げ、袁晋卿は気絶しそうになった。  首をぎこちなく後ろへ向けると、袁晋卿の悲鳴で、驚いた顔をした若藻がいた。 「ええぇ、若藻っ」  目を丸くした袁晋卿は、慌てて、自分が何を抱いているのかを確かめた。  手と手の間には何もなかった。  風が吹いた。ひゅうぅ、という音が、袁晋卿を笑っているようだった。  若藻の視線に気づいて、なんとか平静を装ったまま、 「い、いやあ、若藻、無事で良かったよ。いや本当に」  若藻は、ふぅん、とだけ言った。
/111ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加