8人が本棚に入れています
本棚に追加
古麻呂は少し落ち着かない様子で言葉を続けた。
「おれはさっきまで、うとうとして半分寝てたんだ。で、お嬢ちゃんに起こされて、目が覚めると真備がいないことに気づいたんだ」
若藻と古麻呂が、真備を見ていないと言うので、袁晋卿は、さきほどの気配は真備のものだと察した。
「きっと、用意された部屋か、外だと思いますよ」
真備が通ったと思われる方向を指さして、答えた。
その言葉を聞いた古麻呂は、安心したように足を動かした。
「真備は、確か黄色だったかな」
古麻呂の記憶を信じて黄の間へ向かった。
まず、戸を叩いて応答を待ってみたが、返事はこない。開けてみると、そこには、部屋の広さに、見当がつかないほどの、すさまじい暗闇があった。
「いねぇみたいだな」
早く目の前の闇から立ち去りたい、そう思った古麻呂はすぐに戸を閉じた。
「真備さまが、部屋を間違えたということは」
袁晋卿の言葉に、古麻呂は、「ありえるな」と呟いて、他の部屋を回り始めた。
しかし、真備はいなかった。残った白の間の前に立って、袁晋卿は戸を開けるべきか迷った。
鑑真に、普照と二人だけにしてくれと頼まれたからだ。
「おおい。和上、いるか」
袁晋卿の悩んでいる姿に気づかず、古麻呂は力強く戸を叩いた。
応答はなかった。
「和上、どうしたんでしょうかね」
「寝ちまったのか」
諦めたように戸に背を向けた時だった。
最初のコメントを投稿しよう!