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怪訝そうな男の声が、後ろから聞こえてきた。
袁晋卿は慌てて、気づかれぬよう涙を拭って振り返る。
「あ、真備さま。いえ、何でもないですよ。家族のことを思い出して、泣くまいと首をふっていたわけじゃあないですよ」
袁晋卿は、慌てて言葉を吐いた。にやにやした真備の顔がだんだんと近づいてきた。
その顔は、とても齢が五十を過ぎた初老のものとは思えず、若い容姿をしていた。精悍とした顔つき、どこか悪だくみを含んだような唇、その唇に似合う瞳は鋭く、野心に満ちている。
「そうかそうか」
真備は微笑んだ。
「てっきり頭が壊れたのかと思ったよ。家族が恋しいのは仕方のないことだ」
腕を組んで、うんうんと頷く真備。袁晋卿は赤面した。
「で、何の用ですか。日本の豪族貴族である真備さま」
「うむ。家族想いの袁晋卿が、退屈しないように、友達を連れてきたのだよ。おまえの才能を買って、故郷から引きはがし、別名、死の船と呼ばれている遣唐使船に乗せたのは、わたしだからな」
言いながら、真備は、一人の男を袁晋卿に紹介した。
紹介された男の顔は細長く、青い無精髭が薄く顎を覆っていた。頭髪が無いのと、特殊な服装から考えると、僧であることがわかった。袖から覗く骨張った手首が、まるで骨そのものに見えた。
修行のため痩せた、というのとは違っていた。
「この者の名は、普照[《フショウ》。日本の僧だ。話し相手になるだろう」
話し相手、なるだろうか、袁晋卿は疑問に思った。
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