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「何の用だ。唐の学生」
仏頂面の普照は、袁晋卿を見て、低い声で言った。
「用はないけど、真備さまが、どうしてもお前の面倒をしろ、て言うから、来てやったんだ」
普照を前にして、袁晋卿は親切態度を忘れて答えた。
「お前が、友を亡くして、寂しがっていると思ってな」
「…………おまえ」普照が鋭い眼光で睨んだ。「和語、下手くそだな。漢語で話してくれた方がわかりやすい」
「な、なんだとおっ」
袁晋卿が、顔を紅潮させて叫んだ。だが、普照は、そんな袁晋卿にかまうことなく、またどこかへ移動を始めた。
それ以来、袁晋卿は、普照とは顔を合わせぬよう思ったが、皮肉にも、狭い船にいる二人はたびたび顔を合わせた。
「ち、変なものが目に入った」
「なら、さっさと俺の前から消えろ。唐の学生は、建物にこもって机でもかじってろ」
「なんだと、てめぇ」
そんな会話が毎日続いた。
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